「嘘っ……いったい何なの?」
踊念仏(おどりねんぶつ)ってご存じ?〉

隣に黙座(もくざ)していた金之井嬢が唐突に訊ねる。

〈大勢の人が念仏を唱えて三昧(ざんまい)の境に入るふるまいのことよ〉

思い切り首を横に振ると、そう説明してくれた。
(ちな)みに〝三昧〟とは、精神を集中して雑念を追い出し、一心不乱に一つのことをすることらしい。

〈昔から念仏は死霊(しりょう)(しず)め、御霊(みたま)鎮魂(ちんこん)する力があると云われているの。それをよりパワーアップさせたのが踊念仏。集団で念仏を(とな)え踊ることにより威力が何倍にも増すと云われているの〉

「じゃあ、目の前の人たちがしていることって、その踊念仏なの?」
〈それに近いもの、と言った方がいいかしら?〉

そんな風な会話をしている間にも、六人の動きがどんどん激しくなっていく。

「これって、トランス状態というものじゃない?」

六人はもう座ってはいなかった。通路や座席の上に立ち、歌い踊り狂っていた。

霊にはある程度慣れて、たいていのことには驚かなくなったといえども――人間の奇異な行動には免疫が無い。はっきり言ってこの状態は霊に対面するより怖かった。

〈虚偽の静寂教団ではこれを入神状態と呼んでいるわ。教団本部の敷地に入るための儀式よ。外界で穢れた身を清めるのに必要なの〉

ゲートから本部の建物がある所までの道すがら、毎回行われるという。

「それってイタコが〝口寄(くちよ)せ〟をしているようなもの?」

口寄せとは、イタコと呼ばれる巫女が我が身に死霊を降霊させ、霊に成り代わり対象者に思いを伝えることだが、金之井嬢は全く別物だと言う。