「幅は十メートル弱ぐらいか……」

目前に見える堀を目測する。棒幅跳びでも飛び越えられないだろう。今更ながら自分の無鉄砲さを反省し、少し後悔する。そこに――。

「失礼します!」

警備員の一人がバスに乗り込んできた。

遠目では分からなかったが、かなり若い。それにとても元気だ。この場にいる人々と比べるとかなり異質な存在に思えた。

彼も教団員なのだろうか?
疑問を感じ見つめていると、目が合った。射貫(いぬ)くような視線だ。

ここに来た目的を悟られたらどうしようとドキリとしたが、彼は何事もなかったかのように、「失礼しました」と勢い良く頭を下げると、出て行った。

「――心臓に悪い……」

ドキドキしている胸を押さえ呼吸を整えていると、バスが再び動き始めた。
天地さんは山の中腹に教団の本部があると言っていた。

マイクロバスが繁々(しげしげ)と茂った濃い緑のトンネルの中に入っていく。少し上り坂になっているのだろうか、車のエンジン音が先程までより力強く聞こえる。

「もうすぐママに会えるよ」

少年に声を掛けると私を見上げてニッコリ笑った。その顔に木漏れ陽が当たり、少年を天使のように輝かせた。

グッと胸が詰まる。

早く成仏してもらって、本物の天使になってもらわなきゃ! 決意も新たにフンと(りき)を入れていると、今まで静かだった車内に奇妙な音楽が流れ始めた。

運転手の男性がカーステレオを操作したのだろうが、ビックリしたのは音楽ではない。ずっと沈黙を保ってきた六人が、それに合わせて左右に身体を揺すりながら歌い始めた、ということの方だ。