評判どおり親切丁寧な応対に、気難しい祖父も機嫌良く「ありがとう」と礼を述べた。

「ミライと同じように赤のラインが見えない人には。〝アテンドさん〟というボランティアさんが付いて下さるんですって」

祖母の説明を聞きながら歩みを進める。指示どおりに赤いラインに沿って進んでいるのだろう。祖父も祖母も迷いなく足を運んでいる。

「ねぇ、エレベーターに乗る前にお手洗いに行ってもいいかしら?」
「儂も行きたいと思っていたところだ」

どうやらエレベーターホール近くにトイレがあるようだ。

「ミライちゃんも行く?」
「私はいい」
「じゃあ、ここに座って」

祖母が私を腰掛けさせたのはクッションのある椅子だった。

「少し待っていてね」

そう言って二人はその場を離れた。

途端に辺りが静かになる。時折どこからか響くような声や笑いが聞こえてくるが、それ以外は小さく唸る機械音しかしない。

この音は自販機? 壁の向こうがカフェコーナーだろうか?

ソッと背後の壁を触る。そして、確かめるように手を滑らせる。と、腕を伸ばしきらない所で壁が無くなった。

機械音はその向こうから聞こえる。

ん……? この香りはコーヒー。それもブラックコーヒーの香りだ――やっぱり。

そこにカップの自動販売機もあるようだ。漂ってくる匂いは、たった今淹れたばかりのように香りが立っていた。

ん……? しばらくすると今度は嗚咽(おえつ)混じりの(すす)り泣きが聞こえてきた。