「山伏さんにバイバイ言えないけど、ママのところに行こうっか?」
〈ママ!〉

少年が嬉しそうに瞳を煌めかせる。

〈止めても無駄そうだね〉

溜息と共にシオの耳と尻尾が重力に屈するように垂れ下がる。

〈分かった。天地さんに知らせればいいんだね? 行き先は虚偽の静寂教団本部〉
「そうだよ。ママのところに行こうね」

少年の足元に佇むシオに向かって大きく頷いた。


 *


「金之井さん、どうやってあそこまで行くの?」

先を行く彼女に続いて歩みを進めてはいるが、徒歩で行ける距離ではない。

「私、まだ免許証を持っていないんだけど」
〈大丈夫よ〉

陽炎の金之井嬢は恋する乙女だからか? 優しい。

そう言って微笑むその顔は、元々が美少女ということもあるが、穢れを知らない魂から発せられる超霊波だからか、女神のように眩しく美しかった。

元に戻ってもこうならファンになるのに……。

そう思いつつも、女神の微笑みにお目に掛かれるのは今だけだろう、と思う。
この世を生きるということは、悲しいかな、無垢な魂ではいられないということだ。

正義のためにデマを飛ばしたり、自分とは違う誰かを思いやって嘘を吐いたり、多かれ少なかれこの世に染まるということだからだ。

〈ほら、見えたわ。アレに乗って〉