「あとは母親さえ見つかれば……」

霊だとしても、幼子(おさなご)が母親と離ればなれなのは見るに忍びない。

「どうしたものか……」
〈教えてあげましょうか？〉

独り言に返事が聞こえ、「えっ？」と驚き辺りを見回し、今度はギョッとする。

「金之井……さん？」

事実を知ったあの日から、こっそり探りを入れていたが――。

『モデル業が忙しいから休んでいるんじゃない？』
『家族で海外旅行だって聞いたけど？』

そんなまことしやかな理由が告げられるばかりで、誰も虚偽(きょぎ)の静寂(せいじゃく)教団に関して述べることはなかった。

その彼女が、陽炎のようにユラユラ揺らめきながら少年の後ろに立っていた。

「まさか……貴女、死んじゃったの？」

思わずそう言ったが――。

〈ミライ、どうしたの？〉

少年の方を見ながら立ち止まった私にシオが訊ねる。少年もキョトンとしている。何かがおかしい……。

「視えないの？」
〈何が？〉

シオの返事で確信する。金之井嬢の姿がシオたちとは違う他の何かだと。
でも、何かって何？　混乱しながらも考える。そして、あっ、と天地さんとの会話を思い出す。


『以前、私は全開眼していないと仰せでしたが、どういう意味ですか？』
『それを説明する前に、お前はエコーロケーションという言葉を知っているか？』

知らない、と言うと自慢げに教えてくれた。

『エコーロケーションとは、すなわち〝反響定位(はんきょうていい)〟のことだ。音の反響で周囲の状況を把握(はあく)することをいう』

ここまで聞いても何のことだかさっぱり分からなかった。しかし――。