〈あっ、ミライ、待ってよぉ〉

後を追ってくるシオを無視して門に手を掛けたところで、「おいミライ」とウインドウを下ろした天地さんに声を掛けられる。

「絶対に無茶をするなよ」

先程までとは違ういつになく真剣な眼差しに、あれっ、と首を傾げる。

〈さっきのあれ、ミライの気持ちを解すためだったんだよ。あのままじゃ、お祖父さんやお祖母さんに変に思われるだろう?〉

シオの囁きが聞こえた。
――そうだったんだ……。
分かり(にく)い優しさに、ジンと胸が熱くなる。

「何かあったら、とにかく逃げろ! 闘おうなんて思うな!」

闘う? この先、何が起こると言うのだろう?

憂慮(ゆうりょ)して口を開きかけたが、天地さんは「じゃあな」とあっさり別れを告げると、車を発車させてしまった。

「えっ……未消化な情報ばかり残して、言い逃げ? 嘘でしょう? 消化不良を起こすじゃない」

悶々(もんもん)とした気持ちを抱えながら赤いテールランプを見送っていると、辺りをキョロキョロ見回していたシオが、〈早く中に入ろう〉と私を急かす。

この時私の第六感が、シオは全てを知っているのではないかと告げた――が、次の瞬間、〈女怪盗ルンルンが始まっちゃう〉と焦るシオに、勘違いだったと溜息を吐いた。


 *


あの日から五日過ぎたが、天地さんの心配は杞憂(きゆう)だったようだ。

〈わっ、尻尾(しっぽ)を引っ張らないで!〉

残暑も去りつつある秋晴れの中、シオと少年のじゃれ合う平和な姿を横目に見ながら自宅へと歩みを進める。