「俺は従兄弟の用事で少しの間留守にする。こいつのこと、ちゃんと見張っとけ」

〈ラジャーです〉と返事をするシオは、すっかり天地さんの(しもべ)だ。

「ということは、とうぶんお手伝いしなくていいということですか?」
「その嬉しそうな顔は何だ? 手伝いをしないということは、借金が減らないということだぞ」

天地さんの眉間に皺が寄る。しまった!

「いえ、私のことは気にせずその用事とやらに(いそ)しんできて下さい、と思っただけで……」

引き()る顔に笑いを浮かべると、 ははーん、と彼の口元に意地の悪い笑みが浮かぶ。

「さては、俺に惚れたな。離れ難いと思い始めたんだろう? そうかそうか、とうとうお前まで俺の魅力に当てられてしまったかぁ。ああ、俺って罪な男だぜ」

あまりにも的外れな言葉に呆れ果て、『えっ?』も『はぁ?』も出てこない。金魚のように口をパクパクさせている私に追い打ちを掛けるように、シオまでピント外れなことを言い始めた。

〈えっ、ミライ……天地さんのことが好きだったの? へぇ、そうなんだぁ〉

私の周りを嬉しそうに無邪気に飛び跳ねるシオにイラッとする。

「――バカバカしい」

これ以上ないというような盛大な溜息を吐き、助手席側のドアを勢い良く開けた。

「送って下さって、ありがとうございました。では、ごきげんよう」

棒読みで礼を述べ、別れの挨拶を済ませると、ツンと顎を上げて車から降りる。