ひととおり話を聞くと、天地さんはロダンの〝考える人〟のように、ハンドルを握ったまま沈思黙考(ちんしもっこう)状態に入ってしまった。

沈静(ちんせい)な車内で聞こえるのは、エンジンの音とカーステレオから流れるジャズの調べだけだった。その艶やかでしっとりとした演奏に耳を傾けながら青柳医師を思う。

そして、あと数分で我が家に着くというとこで、沈黙を破るように心に有った疑問を吐露(とろ)した。

「青柳先生はどうして私に毒なんて飲ませたんでしょう?」

未だに信じられなかった。しかし、あの状態を思い起こすと、やはりあの栄養ドリンクに何か混入していたとしか思えなかった。

「――卵が先か、鶏が先か」

天地さんの呟きが聞こえた。

「それはどういう意味ですか?」

彼の方に顔を向ける。天地さんは前方を向いたまま思いを巡らすように口を開いた。

「青柳医師は渡米していた。突然現われて角膜移植手術を提案した。彼はいつから世継病院に勤めているんだ? 外場ミライという人間を最初から狙っていたのか?」

だが、彼の口から発せられた言葉は私の質問に対する返事ではなかった。

「ダメだ! まだピースが足りない」

ガクンと身体が前のめりになる。急ブレーキを踏まれたせいだ。

「――悪いが考えがまとまらない。返事は今度だ。くれぐれも気を付けろよ。おい、犬っころ、いるんだろ?」

〈うん〉と返事が聞こえ、シオが姿を現した。