「本当ですね。総合待合所の椅子が大勢の人たちで埋まっていますね」

祖父も祖母も医者知らずの人間だ。だが私は入院中、世の人の多くがどれだけ医者好きか知ってしまった。

「ここを憩いの場と思っているんじゃないか?」
「ですかね。あの人たちのアレ、朝食かしら? 遠足みたい。おかずの交換をしてらっしゃるわ」

祖母は私にも分かるように状況を説明するのが上手い。それは私が視力を失ったときから始まった。疎外感を覚えさせないためだと思う。

――と、歩みがピタリと止まる。

「外場ミライだが」

入院受付に着いたのか、祖父が私の名を告げる。

「少々お待ち下さい」

カチャカチャとパソコンのキーを叩く音が聞こえてきた。

「確認できました。保険証と診察券をお預かりします」

受け付けの女性と祖父のやり取りで分かったが、角膜の移植手術なのに病棟は外科病棟だし担当医は青柳先生だった。

――変なの……。

そう思ったのは私だけみたいで、祖父も祖母も知り合いが担当医だからか喜んでいるようだった。

「お手元の――病棟までの地図でもお分かりのように、床の赤いラインに沿ってエレベーターホールまで行って頂き――目印はすぐ横のカフェコーナーです。そこのエレベーターで三階にお上がり下さい」

「なるほど」と、何がなるほどなのか分からないが祖父が相槌(あいづち)を打つ。

「着いたら突き当たりを右折して頂き、三メートルほど行けば外科病棟の受付が見えます。そこでこちらのクリアファイルをお渡し下さい」