――本当にこんなものが実在したんだ。

素直に驚き感心しながら部屋の中を見回す。広さは父母と住んでいたマンションのリビングに等しい――おそらく十五帖ほどだろう。

いろいろ訊きたいことや言いたいことはあったが、「そこのベッドでもう少し休んでいてね」と言われ、自分がまだ完全復活していないことに気付く。

「ずっと気になっていたんですが……」

素直に従いベッドに腰を下ろすが、それでもどうしても訊ねたいことがあった。
なあに、と部屋の中程に(しつら)えられたIランド型のキッチンから声が聞こえた。

「奪還って特別室からですか?」
「あらっ? そうよねぇ、意識が無かったんだから知らなくて当然よね」

そう言いながら因幡さんは電子ケトルのスイッチを押した。

「胸はまだムカムカする?」

「はい」と正直に答える。

「だったら、飲み物だけにしましょうね」

しばらくすると、何処か懐かしい、(こう)ばしくて優しい香りが漂ってきた。

「バードックティーにしたわ」

そう言って、因幡さんはティーセットの載ったトレーをベッド脇のサイドテーブルに置いた。

「ゴボウ茶と言った方が分かり易いかしら。ミネラルとビタミンが豊富で利尿作用があるから今の貴女にはピッタリのお茶よ」

体内に入った毒をこのお茶でとことん出してしまえ、ということだろうか?

「さぁ、召し上がれ。そうそう、先に行っておくわね。お手洗いはキッチンの奥よ、遠慮しないで自由に使ってね」