「もう、本当に可愛いんだから」

その背を見つめながら因幡さんがフフフと微笑む。

「あっ、でも、誤解しないでね。蒼穹のことは弟みたいに可愛いだけだから。それに、年下より年上の方が好みなの、あ・た・し」

戯けた調子でそう言うが、本当だろうか? 演技をしているようには見えないが、時折チラリと見せる男っぽい表情が、どうにも本物の〝オネエ様〟ぽくないように思えた。

「なあにその眼? 疑わしきは罰せず、てねっ」

魅惑的なウインクを寄越すと因幡さんは、こっちにおいで、というようにクイックイッと人差し指を折る。

(いざな)われ向かった先は診察室奥にある本棚の前。壁一面が本棚という場所だった。
因幡さんはそこに立つと数冊本を入れ替えた。すると、本棚の中央部分が左右に大きく割れた。

あっ、と声を上げそうになったが、因幡さんの鋭い眼が、何も言うなとそれを止め、入れというように顎をしゃくった。

中は狭く、奥行きが一メートルほどしかなかった。因幡さんが手に持つスマートフォンを操作する。すると、本棚側の扉が閉まったと同時に壁だと思っていたところがスライドした。

「もういいわよ」

そこから中に入り壁が元通りの状態になると、ようやく因幡さんの顔に笑みが浮かんだ。

「防音及び電波も遮断するから何を話しても大丈夫」
「ここって、スパイ映画などで見掛けるシェルター(緊急避難用の密室)というものですか?」

「そうよ、特注なの」と、因幡さんは嬉々としながら説明を始めた。