「ゼロは子供だった。そのカンとかいう奴がゼロだ!」

えっ、と因幡さんと同時に私も驚きの声を上げる。

「プロファイルで三十代前半から四十代後半の男性としてきたが、我々は既成概念に囚われすぎていたようだ。十六歳で医学博士の学位を持つほど優秀なら、手となり足となる影武者を仕立て、こちらの裏をかくことぐらい朝飯前だろう」

天地さんの言わんとすることが分かった因幡さんは、両手で口を覆い、大きく目を見開いた。

「こいつのことは頼む。俺はこれを報告してくる」
「ええ、任して」
「ミライを奪還した時点で我々の動きは知られている。十分気を付けろ。俺が出たらすぐ……」
「みなまで言わなくても大丈夫。すぐ移動するわ」

因幡さんが大きく頷いた。

「それより、蒼穹の方こそ気を付けて」

見つめ合う二人を前に、「恋人同士みたい……」と呟くと、二人が同時に「どこが!」と噛み付くように怒鳴った。

「いい雰囲気だったもので、つい」と言い訳をすると、「ミライちゃんったら腐女子なの?」と因幡さんが笑い出した。

「いえ、そっち方面は興味が無いというより未知の世界なので何とも……」
「断言しておくが、この世にこいつと二人だけになったとしても、有り得ない!」

フン、と鼻息荒く宣言して、天地さんは「他の奴ならともかく、俺と因幡の白兎が――くそっ、考えたくも無い。気持ちが悪い」とブツブツ物申しながら足音も荒々しく出て行った。