だから知っているのは当然だ、ということらしいが……監察医は分かるが、お抱え医師が必要なほど危ない部署なのだろうか?

そんなことを考えながら、「よろしくお願いします」と挨拶をする――が、マル秘だというそのデーターに何と書かれてあったのだろう? 自分の事ながら分からないのが解せず、複雑な心境になる。

「心配しなくていいのよ」

的外れの言葉だが、そう言われるほど浮かない顔をしていたようだ。

因幡さんはニッコリ微笑むと、「ここはあたしの自宅兼診療所だから」と言って両手を大きく広げた。つられて部屋の中を見渡す。

「普段は町医者をやってるのよ、あ・た・し」

どうりで、辞めた今もそのままになっている、祖父の診察室に良く似ているはずだ。
うふふ、と小首を傾げて笑う因幡さんは、俗に言うオネエ様……なのかもしれない。

「こう見えても優秀な医者だ。安心しろ。身体に入った毒は全て解毒してくれた」
「毒って、私、毒を飲んだんですか?」

思いも寄らない言葉に耳を疑い思わず叫ぶと、因幡さんが「心当たりは?」と訊ねる。

「有りません。だって、最後に飲んだのって青柳先生に貰った栄養ドリンク――あっ、違う。世継病院の特別室で飲まされたアイスティーだ……」

天地さんと因幡さんが同時に顔を見合わせた。

「致死量にはほど遠いけど、血中から有毒成分が見つかったの。きっとその栄養ドリンクかアイスティー、または両方に仕込まれていたんだと思うの」