「何がお姫様抱っこだ! こいつがお姫様ってガラか?」

何て失礼な、と思ったが、それを口に出して言えないのがもどかしい。

〈ねぇ、眉間に皺が寄ってる。怒っているみたいだよ〉
「悪夢でも見ているんだろよ? 全く、あれほど離れるなと言っておいたのに」

相当、お怒りのようだ。

「犬っころとチビ助が呼びに来なかったら危なかったぞ。けど、お前らはこいつから離れていろ、ヤバい状況だからな」
〈うん、分かってる。ミライのことよろしく〉

ヤバいって何がだろう? そんなことを思っていると、クッションの悪い何かの上に乱暴に下ろされた。

この匂いは天地さんの車の匂い? あれ? 私は特別室にいたんじゃなかった? 談話室から特別室、そして、天地さんのワゴン車。私ってば、ワープができるようになったのだろうか?

そんな馬鹿げたことを真剣に思っていると、エンジンの音が聞こえた。

「もしもし、ああ、俺だ」

発車したと同時に天地さんが喋り出した。どうやら電話を掛けているようだ。

「間一髪で奪還(だっかん)できた。しかし、目覚めない。何か飲まされたらしい。そっちに連れて行くから()てやってくれ。ああ、よろしく」


 *


「あら、ようやくお目覚めね」

パチパチと数回瞬きを繰り返し、手の甲でゴシゴシと瞼を擦って再び目を開ける。