「ここはどこ? 確か……談話室にいたはずなのに……」

今いるのはベッドの上だ。しかし、病院にある簡易なベッドではない。
重い頭を掌でコツコツと叩きながら辺りを見回す。

部屋の様子からして全く違う――視力が戻ったとき、お祝いだと言って祖父母が連れて行ってくれた北海道旅行。そのとき宿泊した品の良い、星が幾つか付いたホテルみたい。

「おや、気付いようだね」

ドアが開き入ってきたのは青柳医師だった。

「私……」
「あれから気を失ってね。随分と疲れていたんだね?」

小瓶の液体を飲んですぐだったらしい。そう言えばあの直後、気持ちが悪くなり吐いたかもしれない。まだ、胃の辺りがムカムカする。

「ここは世継病院の特別室だよ」
「えっ? あの最上階にあるというVIP(要人)専用の部屋ですか?」

噂では、芸能人や政界のお偉方などといった重鎮(じゅうちん)の隠れ家的な場所らしい。
どうりで豪華ホテルと見紛うはずだと思った途端、青くなる。

「どうしよう……」

だから、部屋の使用料も目玉が飛び出るほど高額だという。そんなお金……ない。

「気にしなくていいよ」

少しハスキーだが青柳医師よりはるかに高い声が聞こえた。

声の方に目を遣ると、青柳医師の入ってきたドアとは違うドアの前に、目も覚めるような美しい人が立っていた。