「はぁぁぁ、疲れた」と言いながら、翠花さんの倒した椅子を元に戻すと、そこにドカリと腰を下ろす。

〈朝から大忙しだったしね、ご苦労様〉
「シオ、労いの言葉をありがとう」

コツンとテーブルに頭を預け、そのまま突っ伏す――と、「ミライ君?」と聞き覚えのある声が聞こえた。

ゆっくり顔を上げ、アッ、と身を起こし、「青柳先生!」と叫ぶようにその名を呼び立ち上がった。

「どうしたんですか?」
「どうした、とはこちらが聞きたい台詞だよ。ここは私が勤める病院だから私がいても不思議はないだろう?」

そうだった。

「で、どうしてここに君がいるのかな?」
「えっと、お見舞いです」

逆に問い返されて無難な言葉を返すと、「お見舞い?」と怪訝な顔をしながら私の額に手を置き、「君の方が病人みたいだよ」と渋い顔をする。

疲労感はあるが、そんなに酷い顔をしているのだろうかと思い、ペタペタと自分の頬を触っていると、「ちょっとおいで」とエレベーターホール横にある談話室に誘われた。そこは医師が患者の家族に話があるとき使用される部屋だった。

「ほら、ここに座って」

椅子を引かれ腰を下ろすと背中の方から肩越しに、「これを飲みなさい」と言って、目の前に小瓶が置かれた。

「これって栄養ドリンクですか?」

白いテーブルの上に置かれたブラウンの小瓶をまじまじと見つめる。

「先生もこんなの飲まれたりするんですね」

「出入りのMR(メディカル・レプリゼンタティブ)――じゃ分からないね。製薬企業の営業担当がくれたんだよ」

ああ、そういうことかと納得する。

「では、遠慮無くいただきます」

この手の飲み物は苦手なのだが、そう言ってしまうほど疲れていたのだと思う。だから、青柳医師の様子が少し変なことにも気付かなかった。