〈戻りたいよ。でも、どうしても戻れないんだ〉
「やってみて」

有無も言わさぬ私に、「悪霊より怖いぞ」と天地さんがポツリと言った。

「どうとでも言って下さい。だって、幽体離脱って時間が経てば経つほど戻り難くなるんでしょう?」

いつかどこかでそんな記事を読んだことがある。

「ああ、そうだ。魂の抜け出た身体は(けが)れに浸食(しんしょく)されていくからな」
「穢れ?」

その説は初めて聞いた。

「そうだ、穢れだ。魂はこの世で何より清く美しいモノだ。魂の抜け出た身体は単なる入れ物過ぎない。穢れにとっては最高の宿体(しゅくたい)だ」

「宿題?」と首を傾げる私に、天地さんは「違う! しゅくたい。穢れが宿る身体のことだ」と説明してくれるが、イマイチ意味が分からない。

「どうして魂がこの世で何より清く美しいモノだと言えるんですか? 悪人の魂もそうだと言えるんですか?」
「ああ、言い切れる。生まれ落ちたときから悪人はいないと言うだろう?」
「そうですが、徐々に穢れていくのでは?」

私の質問に天地さんはフンと鼻で笑った。

「基本的な解釈が違う。こいつを見て視ろ!」

そう言って天地さんは壱吾君の霊を指差した。

「お前、こいつの普段の姿を知っているな?」

確かに知っている。同じ地域に住んでいるし、学年は違うが同じ高校だ。

「あれ? そう言えば、あの高校でも目立って(いき)がっている人でした。こんなんじゃない」