〈ねぇねぇ、お姉さん、退院したらデートしてよ〉

どうして一つ上の人に〝お姉さん〟と呼ばれなきゃいけないのだ。ギッと彼を睨むと、彼は驚いたように訊ねた。

〈視えてるの?〉

祖母と翠花さんに知られないように小さく頷くと壱吾君は破顔した。

〈ラッキー! 俺、このまま生き霊になっちゃったらどうしようって途方に暮れていたんだ〉

そう言う割には妙に明るい。

「すみませんが、精神を統一したいので塔子さんと翠花さんは病室から出てもらえませんか」

私たちの話を聞いていたのだろう。天地さんはゆっくり振り向くと祖母たちにそう言った。

「そうね。翠花さん、ここは天地さんの言うとおりにして、お任せしましょう」

祖母は翠花さんを誘い素直に部屋を出て行った。

「さてと、君が壱吾か?」
〈うへっ、この人、おっかねぇ!〉
「天地さんって生き霊にも怖がられるんですね?」
「ほっとけ」

憮然とした態度で天地さんが舌打ちをすると、ヒッ、と悲鳴を上げて壱吾君が私の後ろに隠れる。

「天地さん、脅してどうするんですか? ほら、壱吾君も落ち着いて」
〈こんな怖い人を前にして落ち着けるわけないじゃん〉
「あのねぇ、どうでもいいけど、自分の身体に戻りたくないんですか?」

シオも恐れ戦く摂氏零度の視線でひと睨みすると、壱吾君は、ひょえぇぇ、と叫んで今度はベッドに横たわる自分の身体を盾にした。