やんわりと言っているが、その眼には『言わなかったら借金を倍額にするぞ』的な脅しが込められていた。

「数年前事故に巻き込まれ失明しました。でも、ドナーと青柳先生のお陰でこうやって見えるようになりました。以上です」

話を思いっ切り端折って一気に言うと、天地さんの顔色が急に変わった。

「それはいつ? 角膜移植をしたということだよね?」
「ミライが事故に巻き込まれたのは十一歳の時でした。手術を受けたのは十三歳です」

祖母には忘れ得ぬ記憶なのか、私が答える前にスラスラ答えていた。

「というと……四年前……」
「ええ、その後は拒絶反応も起こらず、こうやって昔と同じように見えるようになりました。有り難いことです」
「――昔と同じように……」

天地さんがチラリとこちらを見る。彼が何を言わんとしているかは分かった。きっと、『霊も昔から視えていたのか?』だろう。だが、祖母の手前、それを口に出して言って欲しくなかった。

「あっ、着いたよ、何号室?」

チンと到着を知らせるベルと共に私はエレベーターから飛び出した。

「ナースステーションの斜め前、301号室。走っちゃダメよ」

祖母の注意を無視して早足でその部屋に向かう。そして、祖母たちが来る前にノックをした。

引き戸がゆっくり開き、現われたのは――見る影もなくやつれた翠花さんだった。