だからか、設立者は〝謎の大富豪〟だという都市伝説みたいな噂がある。が、真相は今以(いまもっ)て分からないらしい。なぜなら、その件は極秘扱いだからだそうだ。

それも真偽は定かでないようだが、すこぶる評判が良いのは確かだった。

最新医療設備に優秀な医師や看護師。これだけでも十分だが、患者に対するスタッフたちの態度がより高評価を与えていた。

但し、それだけの病院なので紹介状がないと看てもらえない。そこだけが残念なところだった。

だから、『世継病院がミライのかかり付けの病院になるんですか?』と祖父母が狂喜乱舞したのも頷けた。

しかし、いくら評判の良い病院でも、適合ドナーが現われない限り手術は行われない。

『我々医師は角膜だけではなく移植手術全般において、拒絶反応、及び、ドナー不足を問題視しています。それらを克服する方法を常に模索していると言って過言ではありません』

その最もたる有効手段はIPS細胞の活用だと、青柳医師は常々言っている。

『これなら拒絶反応も起きませんからね。しかし、現在のところ臨床試験も思うように進んでおらず、先は長いです』

だから現時点では、ドナーを待つのが現実的で賢明だと、青柳医師はシニカルな笑みを浮かべた。


 *


青柳医師の言葉に従って、ドナーを待ったがなかなか現われなかった。日に日に落胆していく祖父母。そんな二人の溜息を聞くのは辛かった。が――。

「やっとだ……」