「ふーん。一高の人ってほんとに勉強好きなんだ」

「べつに、とくに好きなわけじゃないけど……って、なんで学校知ってるんですか?」

制服はどこにでもあるような紺色のブレザーだし、鞄にもとくにわかりやすいマークなんてついていないのに。

「制服見りゃわかるよ、お隣さんだし」

「え?隣って……」

「おれ、三高生だから」

ニッと笑う彼に、わたしは言葉を失う。でも、すぐに納得した。

おなじくらいの歳で、おなじ電車。奇抜な髪色と服装。どうして気づかなかったのか。

いま、隣にいるこの男は、わたしの天敵、三崎高の生徒だ。

知った瞬間、後悔した。

声なんてかけるんじゃなかった。無駄なお節介なんて発揮しないで、大人しく駅員さんに任せておけばよかった。

けれどいまさらどうしようもないから、わたしはせめてもの抵抗で、無言でずりずりとベンチの端にお尻を動かした。

「あ、そんな急に距離置かれたら傷つくなー」

「そもそもはじめから1ミリたりとも縮まっていないと思いますけど」

それより早くどこか行ってほしい。そっちが行かないならわたしがどこかに行けばいいのだけれど、それはそれでなんだか負けた気がしてシャクだ。

「まあまあ、これあげるから」

と彼は鞄から小さな袋を取り出した。

「……なに、それ」

「小魚。カルシウムが足りないのかと思って」

「はぁ?」

なにこいつ。人のことバカにしてるのか。いや絶対している。だってそれ、端っこにちっちゃく猫用って書いてあるし。