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電車を降りたときには、3番線の電車はすでに行ってしまった後だった。次の電車が来るのは15分後だ。
「えーと……俺のせいで、なんか、ゴメンナサイ!」
「べつに。声をかけたのはわたしの判断だし、謝ってもらう必要はありません」
それより早くどこかに行ってほしかった。
わたしはホームのベンチに座って、鞄からさっき見ていた参考書を取り出す。明日はテストなのだ。15分だって無駄にできない。一応、話しかけるなアピールのつもりでもある。
なのにーー、
「ねえ」
「…………」
「ねえ」
「…………」
「ねえねえねえねえ」
ーーうざッッッッ!
「もう、なに!?」
イライラがピークに達して、思わず叫んでしまった。
なのに彼は、
「あ、やっとこっち向いてくれた」
と、呑気に笑ってそんなことを言う。
「暇だし、なんか話そ?」
「わたしは暇じゃないんですけど」
わたしは顔を上げずにきっぱりと言った。
ひとが勉強している隣で、安っぽいナンパみたいな台詞を吐かないでほしい。ナンパなんてされたことないけど、こいつはきっと常習犯に違いない。それとも、本気で空気が読めない人か。