あれこれ考えながらホームに目を移すと、バタバタと忙しなく駅員さんが通り過ぎていく。乗客はいつの間にかわたしと彼だけになっていた。
「…………」
ーーああ、もう、面倒くさい。
わたしは歩み寄って、思いきって声をかけた。
「あのっ!」
「ぐぅ……」
いびきで返事した!?
わたしは怯みつつ、気を取り直してもう一度、
「あのっ、起きてください!」
言った瞬間、固く閉じていた両目がいきなりパチッと開いた。
「え、うわ、寝てた」
彼は慌てて周りをキョロキョロと見回し、それからわたしを見上げた。
「えーと……何事?」
「列車の事故で、降りてください、だそうです」
「もしかして、きみが起こしてくれた?」
「はぁ、そうですけど……」
「そっか、ありがと」
と、彼は人懐っこい笑顔で言った。
初対面の相手に、そんな屈託のない笑顔を向けられたのは初めてで、わたしは思わず面食らってしまった。
ーーいやいや騙されるな、頭オレンジ色だし。絶対、関わらないほうがいいに決まってる。
「どうかした?」
キョトンと見上げるその顔に、どうにも警戒心が緩みそうになる。
「は、早く降りないと」
「ああ、そうだね」
駅員さんの視線をビシビシ感じて、わたしたちは急いで電車を降りた。
事故とはいえ、高校に入ってから半年で、初めての途中下車だった。
駅名を知っているだけの、いつもはただ通り過ぎるだけの小さな駅。電車の窓から、秋の鮮やかな夕焼け空と、横並びのビルが見える。
いつもと違う駅の景色は、なんだか落ち着かなかった。