大半の乗客はすでに降りていた。だけどそんななか、隅のほうに、まったく動く気配のない人物がいた。

おなじくらいの歳の男の子だ。まだ9月だというのに、深めにかぶったニット帽。その下からさっき窓から見た夕焼けみたいな、鮮やかなオレンジ色の髪がのぞいている。

奇抜な髪の色にまず目を奪われたけれど、それ以上に驚くことに、この状況で、

ーーね、寝てる……。

この騒ぎがまったく耳に届いていないかのように、頭を壁に預けて、気持ちよさそうにすうすう寝ている。

これだけ騒がしいのに起きないってすごい……って、感心してる場合じゃなくて。

この人、起きなくていいの?むしろこういう場合、気づいた人(つまりわたし)が起こすべき?

わたしは戸惑いながら、おそるおそる近づいていく。

きれいな寝顔だった。色白で、小顔で、まつげが長くて、その顔だけ見れば女の子のようにも見える。膝の上に乗せているリュックがぬいぐるみみたいで可愛らしい。

ーーとはいえ、油断は禁物だ。

正直言って、そんな奇抜な頭の人に声をかけるのは気が引ける。でも、このまま寝ていたら駅員さんの迷惑になるんじゃないか。いや、迷惑なら声をかけるだろうし、べつにわざわざわたしが起こさなくたって……。