◯
ガタン、と突然電車が止まった。普通の止まり方じゃないのは、すぐにわかった。
なんだろう。わたしは広げていた参考書から目をあげた。
異変に気づいた人たちが、不安げな声をあげる。
「え、なに?」
「なんでここで止まったの?この駅たしか通過だよね?」
窓の外に視線を移すと、白いプレートにひらがなの駅名がちょうど見えた。たしかにそこは、この電車では本来通り過ぎるはずの小さな駅だった。
とそこに、アナウンスが聴こえてくる。
『列車事故が発生したため、運転を見合わせます。発車時刻は未定です』
「なに?事故?」
「えーこわー」
「ふざけんな、こっちは急いでんだよ」
騒ぎだす乗客たち。わたしはついてないなあ、と心のなかで愚痴を吐きつつ、でもどうしようもないから、構わず勉強を続行することにする。
まあ、待っていればそのうち動き出すだろうし。
なんて思っていたら、
『3番線にまもなく電車が到着します。大変ご迷惑をおかけしますが、お急ぎの方はそちらにお乗り換えください』
急ぐようなアナウンスの声。駅員さんも余裕がないのがその口調から伝わってくる。
つまり、さっさとここから降りて隣の電車に乗り換えろということらしい。
……まったく、ほんとに、ついてない。
わたしはため息をつきながら、参考書を閉じて鞄にしまった。