あのとき泣いていた男の子が、きみだった。

いつも明るくて、楽しそうで、好きなことを全力でやるなんて眩しい笑顔で言えるきみが、あのひとりで泣いていた男の子だった。

忘れていた記憶、あの頃の、無邪気に笑って小さなことなんて気にしなかったじぶんが、目の前に立っているようだった。

『顔あげて。こっち向いて』

『ほらね。元気になったでしょ?』

そう言って、ニッと大きな口で笑うんだ。

「……わたし、かなり無茶なこと言ったよね」

わたしは恥ずかしさを誤魔化しながら、そっと苦笑した。

ほんと、ときみは笑って言う。

「泣いてるのに笑えって、そんなの無理だと思った。なにも知らないくせに簡単に言うな、じゃあ代わってみろよ、おなじ立場でもおなじこと言えるのかって、思ってた」

でも、と広瀬くんは当てつけみたいな言葉とは裏腹に、優しい口調で続けた。

「でも、おれは、その子に、その言葉に、救われた。泣いてると、その子の顔が頭に浮かぶんだ。名前も知らないその子に、泣くなって言われてる気がした。泣きたくなるたび、もらった帽子を手にとって我慢した。泣いてばっかじゃまた怒られると思った。いつまたその子に会っても恥ずかしくないように、無理矢理にでも笑っていようと思った」



『だからこれは、お守りなんだ』