ニット帽をすっぽりかぶった小さな男の子に、
『うん。似合う似合う』
わたしはニッと笑って言う
完全に自己満だったけれど、間違ってはいないと思った。
だってーー
『ほらね。元気になったでしょ?』
男の子は、もう泣いていなかったから。
『なにがあったか知らないけどさ、泣いてるより、無理矢理でも笑ってたほうが、きっと元気になるし楽しいよ』
そう言ってわたしは、男の子の白い頰をぎゅむっと引っ張った。
我ながら呆れるくらい能天気な言葉だ。ひとの事情も知らないくせに無理矢理笑えだなんて、無責任だしすごく難しいことだっていまならわかる。でも、そのときは、ちっとも考えなかった。
ただ、笑ってほしかった。目の前のきみに。
ものすごく単純で、まっすぐな気持ちだった。
それきり、その男の子には会わなかったし、病院にも行かなくなった。
ーーあの男の子、どうしてるかな。また泣いてないかな。
ときどき気になりつつ、でも気にしないふりをした。
わたしには関係ないことだ、そう思い込むことにした。
それなのにーー
わたしは忘れてしまったのに。
きみはずっと、5年間、そのことをずっと覚えていて、大切にとっておいてくれたんだ。