5年前ーー?
わたしが広瀬くんと出会ったのは、3ヶ月前。今年の秋だ。
5年も前に、会っているはずがない。
「前にも一度、会ったことあるんだ。あの病院で」
「うそ」
わたしは半口を開けてボカンとする。
全然、覚えてない……。
「覚えてないか、やっぱり」
広瀬くんがふっと苦笑をこぼした。
「まあ、あのときのおれ、いまと全然違うからな」
病院には当たり前だけどいろんな年代の人がいて、同年代くらいの子どももたくさんいる。だけど、いちいち通り過がりの人たちの顔なんて覚えていなかった。
「その頃、じぶんの耳がいつか完全に聴こえなくなるのを知って、いつも泣いてばっかだった。難聴になったことさえ受け入れられないのに、いつか完全に聴こえなくなるなんて……なんでおれなんだって、じぶんの運命を呪った。家族も友達もみんな急に気を遣いはじめて、なにをしても病人扱いで、学校でも家でも、どこにいても息苦しかった。だからいつも、人目から隠れてこっそり泣いてた」
そしたらーー
と、きみは微笑んだ。
「そしたら、そこに、ひとりの女の子が来たんだ」
は、とした。
きみがいま、きっと、頭に浮かべていること。光景、そのとき交わした会話ーー
わたしは、知っていた。わたしも、確かに、そこにいた。