「愛音……」

つぶやいたきみの顔を見て、ぎょっとした。その両目から、大粒の涙がぼろぼろこぼれ落ちていたから。

「ひ、広瀬くん?」

「やべ、涙止まらない。愛音、止めて」

「止めてって……」

そんな無茶な。

びっくりさせるとか?いやしゃっくりじゃないし。

「あっ、そうだ」

わたしはふと思い出して、鞄を探った。

病室を出る前に、とっさに掴んで鞄に入れたもの。

「はい。忘れ物」

手を伸ばして、きみのオレンジ色の頭に、すっぽりとそれをかぶせた。

いつも身につけているきみの“お守り”。

「大事な物なんでしょ」

「…………」

広瀬くんは、ポカンと口を開けて、


「……涙止まった」


そうつぶやいた。かと思えば、

「ははっ、すごいなぁ、愛音は」

今度は笑いだした。

泣いたり笑ったり、ころころ変わる表情に、今度はわたしが戸惑ってしまう。

「あのときと、おなじだ」

「あのとき……?」

「うん」

ときみは涙が滲む目を細めて頷いた。

「5年前にも、おれは、愛音に助けられたんだ」

「え……?」