乃亜さんは驚いたように目を見開いて、

「……ほんと、あんた根性ある」

苦笑をこぼして、つぶやいた。

「手話とか、覚えてみたらいいんじゃない」

「手話?」

「聴こえなくなっても、話せなくなっても、手話なら会話ができる。言葉がなくても、共通の言語になる。筆談だって、ジェスチャーだって、なんだっていいから、たくさん話をしたらいいと思う。そしたら、相手のしてほしいことくらい、わかるんじゃない?」

「そっか……」


そうかーー音が聴こえなくても、声が出なくなっても、会話ができなくなるわけじゃないんだ。

気持ちを伝える手段は、声のほかにもたくさんあるんだ。

「乃亜さん、ありがとう」

「べつに、普通のこと言っただけだし」

乃亜さんは照れ臭そうに言った。

「慧のとこ行くんでしょ。早く行きなよ」

「うん」


いつもより早い時間。

いつもより長く、きみといられる。

今日、目を覚ますかもしれないし、明日かもしれないし、もっと先かもしれない。未来じゃなく、いまだってわからないことだらけだ。

でもーー

わたしが一緒にいていいのかなって、不安もあるけれど、みんなが背中を押してくれたから、わたしはまた、きみに会いに行ける。

早くきみに会いたい。
顔を見て、話がしたい。
声を聴きたいーー。

わたしの望みはそれだけ。
当たり前のようで当たり前じゃない、きみがいる日常が、すごく恋しい。