「それと……」
と乃亜さんは少し言いづらそうに目を泳がせて、それから顔をあげた。
「あたし、あんたに嘘ついた。慧の帽子、あげたのあたしじゃない」
え、とわたしは小さく声をあげる。
乃亜さんじゃ、なかった……?
「慧のお守りーーあたしは結局、そういう存在にはなれなかった。そんなのとっくにわかってたけど、どうしても認めたくなくて、ついあんなダサい嘘ついちゃった」
乃亜さんはそう言って、それから、まっすぐに目を合わせた。
「言っとくけど、あたしはこれからも慧のこと大好きだし、諦めるつもりもないから。だから応援なんて絶対しないけど、もう邪魔もしない」
「乃亜さん……」
わたしは、縋るように言った。
「わたし、広瀬くんのために、なにかできることあるかな」
ずっと考えていた。
わたしはきみのそばでなにができるのかな、って。
きみが感じている不安や怖さを、全部わかることはできないけれど、それでもなにかしたい。力になりたい。時間が経つほど、そう思う気持ちは強くなっていく。
なにかひとつでもわたしにできることがあるのなら、どんなに小さなことでも、やりたかった。それがきみの希望に繋がるのかどうかなんて、わからないけれど、なにもしないでじっと待っているのは、もう嫌だから。