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「えー、明日から冬休みに入りますが、気を緩めることのないように……」
恒例の校長先生の長い話で締めくくって、終業式が終わった。
明日から冬休み。といっても、年末までみっちり冬季講習が埋まってるから、あんまり休みという感じはしないけれど。
今日は午前中だけでお昼休みもなし。早く終わるのは嬉しかった。
HRが終わって帰る支度をしていたら、
「ねえ、今日は部活ないし、みんなでどっか行かない?」
と佐奈が言った。
「え、でも、先生たち見張ってないかな?」
「だーいじょうぶ。うちらは半日だけど、先生たちはまだ学校にいるはずだから」
「まあ、たまにはいいかもね」
普段は真面目な由香里が、珍しく同意する。
「いいよー。行こう行こう」
と来海も乗り気。
「倉橋さんも行こうよ」
「わたしは……ごめんね、行くところがあるんだ」
行きたい、でも、きっとみんなといても落ち着かないと思う。
早く病院に行きたいって、そのことばかり考えてしまうから。
「もしかして、彼氏とか?」
「えっ」
ギクリとした。
「え、その反応、ほんとに?最近なんか倉橋さん急いで帰ると思ってたら、なるほどねーそういうことかー」
と勝手に推測をはじめてニヤニヤする佐奈。
さすが噂好きなだけあって、よく見ている。
「彼氏じゃないけど、好きな人のところ」
わたしは言った。
「えっ」
佐奈と由香里、そして来海も目を丸くした。
「うそ、誰誰!?」
「三高のひとだよ」
「ええ!?」
「え、ちょっと待って、なんで三高……え、特ダネなんだけど!」
ネタにする気満々の佐奈に、
「今度、ちゃんと話すね」
とわたしは笑って言った。
ついでみたいに言ってしまったけれど、言ってよかった。
悪いことなんてしていないんだから、嘘をつく必要ないと思った。
じぶんが好きなこと、好きな人のことを、堂々と口にしたかったから。