もうすぐクリスマスがきて、大晦日がきて、1年が終わる。
いままではなんてことなかった、ただのカレンダーの日にちのひとつ。イベントで盛り上がる人たちを、バカみたいだといつも冷めた目で見ていた。
クリスマスが楽しみだなんて、思ったのは、広瀬くんに会うようになってから。
『冬休みしたいこと、考えといて』
やりたいことがたくさん浮かんで、楽しみが増えて、バカにしていたイベントだって、いつの間にか楽しみになっていた。
それもこれも、全部、きみのせいだ。
なのに、きみはまだ、目を覚まさない。
あれから1週間ーー
最初はそれほど長引くと思われていなかった昏睡状態に、広瀬くんは、いまも留まっている。
広瀬くんのお母さんが涙を浮かべて言ったあの言葉が、頭から離れなかった。
『もしかしたら、目を覚ましたくないんじゃないかって』
きみは、目を覚ますことが、怖いんだろうか。
目を覚まして、現実と向き合うことが、怖いんだろうか。
少しずつ音が聴こえなくなっていって、いつか完全に聴こえなくなる。声を出すこともできなくなる。
人と話すことが好きで、音楽が好きな広瀬くんが。
好きなことが、だんだんできなくなっていく辛さ。
わたしはその辛さを全部わかることはできないけれど、じぶんがもしそうなったら。それはすごく辛くて、怖いことだ。
だけど、きみがその辛い現実と向き合うのなら、わたしもそこに、いたいと思う。
わたしが辛いとき、きみはそばにいてくれたから。
今度は、わたしが返すから。
ーー広瀬くん。
お願いだから。ゆっくりでいいから。
戻ってきて、きみとまた話をしたいんだ。