「さあ、家に帰ろう」
「うん」

案の定、一緒に帰ってきたわたしたちを見て、お母さんは案の定、驚いていた。

理由も聞かずに、そそくさとキッチンに引っ込んで慌ててご飯の準備をしはじめて、

「……ご飯、できてるわよ」

なんて言って、必死に冷静を装っているのがなんだかおかしかった。

きっと、帰りが遅いから心配して待っていてくれたんだろう。

「お母さん。この前、ひどいこと言って、ごめんなさい」

わたしはお母さんの背中に向かって言った。お母さんは背を向けたまま、小さく答えた。

「わたしも、ちょっと言いすぎたわ」

意地っ張りな家族だと思う。意地っ張りで、不器用で、それぞれ、ひとりで悩んでいた。

でも、話してみて初めてわかったこともあった。

ようやく、少しだけ、前を向けた気がした。

久しぶりに家族3人でご飯を食べた。

やっぱり会話はほとんどなくて、静かな食卓だったけれど。

ーーでも、なんかいいな、こういうの。

一緒にご飯を食べて、一緒にテレビを見て、少しずつでも話をして。

もう二度と戻ってこないと思っていた時間。

なくしたと思っていた温かい空間が、戻ってきたことが、ただ嬉しかった。