「……わたしは結局、なにもできない」
わたしはぽつりとこぼした。夜に紛れる独り言みたいに。だけどお父さんは、行き場のないその声を、ちゃんと拾ってくれた。
「なにもできないことはないだろう」
とお父さんは言って、
「もう充分してるじゃないか。人は寝ていても、無意識に物音や声を聴いているものだ。おまえがそばにいることを、彼はきっと近くで感じているだろう」
「そう、なのかな。でも、広瀬くんは……」
補聴器をつけていないと、ほとんど音が聴こえないと言った。
わたしの声も、誰の声も、もしかしたら、いまのきみには届いていないのかもしれないーー
「この場合、聴力はあまり関係ない。大事なのは心だ。ほんとうに伝えたいことを、心から語りかければ、それは必ず伝わるはずだ」
「……お父さんって、意外とロマンチスト?」
びっくりした。お父さんの口から、精神論を聴くとはおまさ
「経験から言ってるんだ」
お父さんは照れたように答えた。