目の前を駅行きのバスが通り過ぎて行く。

病院前のバス停のベンチで、わたしはもう3本もバスを逃していた。夕焼けが差していた空は、だんだん光をなくして黒みを帯びていく。

広がる夜空に小さな明かりを灯すみたいに、星がチカチカと瞬く。

ぼうっと星を眺めていたら、隣に人が立った。

「帰らないのか」

とその人は言った。

「この時間なら、さっきバスが行ったところだろう」

「……お父さん」

わたしは顔をあげてつぶやいた。

ずっと昔から愛用している古びた黒いコートと茶色のマフラーに身を包んだお父さんが、そこにいた。仕事を終えて、疲れた顔をしている。

「いま帰り?」

わたしが言って、

「ああ」

お父さんは短く答えて、隣に腰を下ろした。

なんとなく、気まずい空気が流れる。

仲が悪いわけではないけれど、元々口数が少ないお父さんとは、家でもあまり話すことはない。

普段でも話さないのに、こんなときは余計に、なにを話していいかわからない。

いま何時だろう。またお母さんに怒られるな。そう思って、でもそんなこと、どうだっていい気もした。

この前ケンカをしてから、お母さんとは一言も口をきいていなかった。お互いになにも言い出さないまま、3日も過ぎてしまった。