あれ以来、一度も、広瀬くんのお母さんとは、その話をしていない。
わたしに会っても、普通に人のいい笑顔で接してくれるけれど……

『慧との付き合いのこと、よく考えてみて』

あの言葉が、本当の気持ちなんだと思う。

子どものことが心配で、傷ついてほしくなくて。

わたしはきっと、広瀬くんのお母さんを困らせてしまっている。

だけど、1日中きみのことを考えていて、学校が終わるとすぐに電車に飛び乗って、病院に向かっている。

もしかしたら、今日目を覚ますかも、そう思ったら、いてもたってもいられなくなる。


「慧、愛音ちゃんが来てくれたわよ」

病室のドアを開けて、広瀬くんのお母さんが声をかける。

広瀬くんは、昨日と変わらずベッドの上で、点滴のチューブに繋がれている。

棚に花瓶を置いて整理をはじめたお母さんは、とくにそのことを気にしていない風に見えるけれど、きっと誰よりも苦しい思いをしているだろう。