「愛音ちゃん、こんにちは」

病室に向かう途中、広瀬くんのお母さんに声をかけられた。

「こんにちは」

わたしはぺこりと頭を下げた。

彼女の手には、赤と白の花びらの可愛らしい花を挿した花瓶が抱えられている。

「可愛い花ですね」

とわたしが言うと、彼女はふっと広瀬くんによく似た顔を綻ばせた。

「これ、クリスマスローズっていうの。クリスマス前だからね。最近はいろんな種類が売られていて、見るのも楽しいのよ」

「へえ、初めて見ました」

愛音ちゃん、と彼女は言った。

「毎日お見舞いに来てくれてありがとうね。勉強も忙しいでしょうに」

「いえ。冬休み前でやることもないし……それに、わたしが来たいので」

そう言ってから、わたしは好きな人のお母さんになにを口走っているんだと青ざめたけれど、

「ありがとう。慧も喜ぶわ」

そう言ってくれて、ホッとした。

病院に通うようになって、3日目。広瀬くんはまだ目を覚まさない。

いったい、広瀬くんの体のなかで、なにが起こっているのか。

はっきりしたことは、誰にもわからない。