そんなことないって、言いたかったのに、言えなかった。
それは、5年間、子どもの病気と向き合ってきた重みのある言葉だから。
そのことを知ったばかりのわたしに、彼女の言葉を否定することなんて、できるはずがなかった。
その通りだった。広瀬くんのお母さんは、ちゃんと見抜いていた。
事実を知って、それでも一緒にいられる覚悟なんて、わたしにはまるでないことを。
ーー広瀬くん。
わたしがきみを好きなのは、いけないことなのかな。
きみをわかろうとするのは、無理なことなのかな。
冷静に考えれば、やめたほうがいいのかもしれない。もう少し大人になれば、その言葉の意味も、いまよりわかるようになるのかもしれない。
だけど、わたしはそんなの、わかりたくなんてなかった。
大人になんて、なりたくなかった。
わたしはただ、きみのそばにいたいだけなのに……。
だけど、それが正しいのかどうかも、やっぱりわからない。
なにが正しいのか、大事なのか、たくさん考えた。いままでにないくらい考えすぎて、頭がパンクしそうだ。
勉強みたいに、決まった答えがあれば楽なのに。
だけどそんなものがあるはずないってわかっているから、こんなにも苦しいんだ。
ーーねえ、広瀬くん。
お願い、戻ってきて。
いつもみたいに笑ってくれなくてもいいから。
きみの声を聴かせてよ。