昨日、広瀬くんのお母さんは、わたしに言った。


『慧の耳はね、いつか、完全に聴こえなくなるの』


『え……?』


その言葉の意味を、すぐには頭で理解できなかった。

いまでも広瀬くんは、補聴器がなければほとんど音が聴こえないという。

なのに、完全に聴こえなくなるってーー。


『5年前……』

彼女は震える声で、それでも冷静さを失わずに話した。

『5年前に、病気で難聴を発症したときから、そう言われてた。この子のケースは特殊で、いまは補聴器で聴こえているけど、少しずつそれも難しくなっていって、そのうち完全に聴こえなくなる。聴こえなくなるということは、話せなかなるということ。いまはどうにかできている会話も、いずれ、できなくなるの』

『そんな……』

そんなの、信じられない。

だって、広瀬くんはーー

きみはいつも笑っていて、楽しそうで、そんなこと、少しも感じさせなかった。

いつか、完全に聴こえなくなる。

話すことも、できなくなる。


10歳のときに、そんなに小さなときに、そんな残酷な未来を、告げられていたなんて。