石田くんが帰ってからも、わたしはしばらくぼうっと立ちつくしていた。
驚いたし、信じられなかった。
いつも仏頂面で、表情がほとんど変わらない石田くんが、あんなに真っ赤な顔で『好き』なんて。
誰かにそんなことを言われたのは初めてで、もし、言われたのがいまじゃなかったら、もっと違う気持ちで聴けたかもしれない。
でもーーごめん、石田くん。
わたし、いま、隙間がないんだ。
頭も心も広瀬くんでいっぱいで、これ以上、なにも考えられないんだ。
病室に戻って、今度はひとりで広瀬くんと向き合う。
昨日、広瀬くんのお母さんが話したことを、頭に反芻する。あれから、何度も考えた。だけどどれだけ考えても答えは出なかった。
当然だ。答えなんて、ないのだから。
そこにあるのは、残酷な現実だけだった。
ーーねえ、広瀬くん。
「冬休みしたいこと考えといてって、言ったよね。考えたよ。たくさん、考えたよ」
映画を見たり、おいしいものを食べたり、好きな本を読んだり、音楽を聴いたり、お店で一緒にCDを探したり。年が明けたら初詣もしたいし、春になったら、あの公園で桜も見たい。
やりたいこと、行きたい場所が、たくさんある。
でもーー、
わたしはギュッと、きみの手を握りしめて、つぶやいた。
「……全部、広瀬くんと一緒じゃなきゃ、意味がないんだよ」