『行こう、愛音』

言われるがままに電車を降りたあの駅。人がたくさん往き交い、イルミネーションの光が瞬く街。

またここに来るなんて思わなかった。

でも、あのときとは状況がまったく違う。

いまはここにいないきみに、わたしはこれから会いに行く。

イルミネーションを眺める人たちの横を通り過ぎて、駅からバスに乗って病院へ行く。病院前のバス停で降りて、広い敷地内を歩く。日差しを落とした芝生に囲まれた道を、患者さんや見舞客や従業員たちが横切っていく。

子どもの頃から見慣れた光景。大きくなるにつれて足が遠のいていって、最近では随分遠い場所になっていた。誰になにを言われたわけでもないのに、じぶんから遠ざけていたんだ。

「広い病院だな」

石田くんが辺りを見回して、感心するように言った。

「ここ、倉橋さんのお父さんが経営されてるんだよね」

「そうだよ」

わたしが言ったわけじゃないけれど、石田くんはなぜか当たり前のように知っていた。

「将来は倉橋さんがここを継ぐのか」

「たぶんね」

「すごいなあ。もう将来を決めてるなんて。おれなんか、まだ全然だよ」

「最初から決まってたから。わたしだって家が病院じゃなかったら、きっとほかの道を目指してたよ。親が教師なら教師とか、和菓子屋なら和菓子屋みたいに」

「それはそれで見てみたいな」

と石田くんは笑った。

石田くんが笑うなんて珍しいことだから、少し驚いた。