下駄箱で靴を履き替えていると、

「倉橋さん」

石田くんに呼び止められた。

「なに?」

早く病院に行きたくてもどかしいわたしの横を石田くんは通って、じぶんの靴を手に取る。そして、思いがけないことを言った。


「広瀬のところに行くのか」

「ーーえ?」

唐突に出てきたその名前に、わたしはたじろぐ。

「な、なんで」

「悪い。さっき、牧瀬さんと話しているところを聞いてしまった」

「いや、そうじゃなくて」

なんで、石田くんが広瀬くんのことを知ってるの?

「中学がおなじだった。この前、学校帰りに倉橋さんと歩いてるところを見た。一瞬だったし見間違いかと思ったけど、やっぱりあれは広瀬だったんだな」

石田くんは、足元に視線を落として言う。

「うん」

「入院、してるんだよな」

「うん」

「そうか。ならーー」

石田くんは顔をあげて、目を合わせて言った。

「おれも一緒に行っていいか。あいつに、どうしても言いたいことがあるんだ」