◯
下駄箱で靴を履き替えていると、
「倉橋さん」
石田くんに呼び止められた。
「なに?」
早く病院に行きたくてもどかしいわたしの横を石田くんは通って、じぶんの靴を手に取る。そして、思いがけないことを言った。
「広瀬のところに行くのか」
「ーーえ?」
唐突に出てきたその名前に、わたしはたじろぐ。
「な、なんで」
「悪い。さっき、牧瀬さんと話しているところを聞いてしまった」
「いや、そうじゃなくて」
なんで、石田くんが広瀬くんのことを知ってるの?
「中学がおなじだった。この前、学校帰りに倉橋さんと歩いてるところを見た。一瞬だったし見間違いかと思ったけど、やっぱりあれは広瀬だったんだな」
石田くんは、足元に視線を落として言う。
「うん」
「入院、してるんだよな」
「うん」
「そうか。ならーー」
石田くんは顔をあげて、目を合わせて言った。
「おれも一緒に行っていいか。あいつに、どうしても言いたいことがあるんだ」