携帯電話の普及により、公衆電話は激減してしまっていることを思い出したのは、歩き始めてなかなか公衆電話が見つからないことに気づいた時だ。

 歩く時間が長引けば長引くほど気持ちは急き、私は走り出していた。

 運動部には入らず、帰宅部のしかも幽霊部員の私の肺はあまりにも脆弱で、何度も家に帰ろうと思った。公衆電話が見つからないのは、こんなチラシに関わるなということだ。

 うん、分かっている。こんな根も葉もない紙切れにすがって何になるのかと。

 それでも足は家の方には向かなかった。走り回って汗をかいているはずなのに、明日からの学校での日々を想像するだけで背中が震え、私は両腕で自分自身の体を抱きしめていた。

 私がようやく一台の公衆電話を見つけたのは家を出て、小一時間ほど経った頃だ。

 公衆電話は、駄菓子屋の軒先にひっそりと設置されていた。古ぼけていて、壊れているんじゃないかと訝しく思ったものの、受話器を耳に当てれば、ちゃんとプーッという音が聞こえ、胸をなでおろした。

 電話の上に貯金箱を置いて、蓋を引っ張る。やはり固くて開かない。何度か試行錯誤しているうちに、蓋を開けるには引っ張るんじゃなくて回すのだとようやく気づいた。