ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「なぜお前たち狼人族と兎人族は、縄張り争いと称して戦っているんだ? いや、なぜ戦争と偽ってまでお互いに殺し合っている?」

​「……っ」

​フォルは答えを避けるように、俺から視線をそらした。

その態度を見て、俺は小さくため息を吐く。

​昔から都合の悪いことを聞かれると、何も知らないふりをして目をそらす癖は変わっていない。

呆れてしまうほどだ。

だが、この件だけは絶対にこいつから聞き出さなければならない。

​狼人族と兎人族が戦争をしているという話を耳にしたのは、三日前のことだった。

​カレンが住む街に用事があり、立ち寄ったレストランで昼食を取っているときだ。

隣の席に座っていたご婦人たちの会話が偶然耳に入ってきた。

​「まだ狼人族と兎人族は喧嘩してるのかい?」

​「馬鹿だねぇ。喧嘩じゃなくて、戦争だよ。なんでも縄張り争いらしいじゃないか」

​その言葉を聞いた瞬間、俺は手に持っていた紅茶のカップを落としそうになった。

​「ふぅ……」

​カップを落とさなかったことに安堵し、俺は再び彼女たちの会話に耳を傾ける。

​「もう六十年も前から続いているらしいわよぉ」

​「そうだったのかい? ちっとも知らなかったよ」

​彼女たちの話を聞きながら、俺は以前に訪れた狼人族と兎人族の村の様子を思い出していた。

​「あいつらが……戦争?」

​最初は信じられなかった。

​彼らは互いに助け合い、交流を深めていたはずだ。いったい何があったというんだ?

​「六十年も前か……」

​だとすれば、あの生意気だったガキはもう族長になっている頃か。

​確か、幼なじみのスカーレットと結婚するとそう言い張っていたな。