「いずれお前も戦うことになるんだ。そうだろう?」

​私の言葉に、彼は静かに真剣な眼差しを向けた。

その左目は、かつての輝きを失い深い疲労の色を宿している。

その表情から、ここに至るまで彼がどれほどの苦難と孤独を乗り越えてきたのかが、痛いほどに伝わってくる。

​共に過ごした日々は、あの壮絶な戦いを終わらせるまでだった。

その後、どこでどのように過ごしていたのか、私自身も知る由はなかった。

ただ再会した彼の姿が、想像していた以上に過酷な旅路を物語っていることに、私の胸は静かな痛みを覚えた。

​「お前なら必ずやり遂げると……そう、信じているからな」

​そうだ、彼の願いは私にとっても大切なものだ。ただの協力者ではない。

その願いのために、私はあの時この力を貸すことを決めたのだから。

彼に、私自身の未来を託すと決めて。

​「ありがとうな、サファイア。だが、一つ気になることがあるんだ」

​「気になること?」

​彼は左目を細めたまま、ゆっくりと空を仰いだ。

その視線の先に、私には見えない何かがあるようだった。

​「微かだが、この島から闇の魔力を感じた。いや、ここだけじゃない。俺が旅をしていた間に、ここ以外にも別の場所から、強力な闇の魔力を感じたんだ」

​「闇の魔力だと?!」

​私の心臓が、警告の鐘を鳴らすように高鳴る。

この島から……しかもここだけではない場所からも、闇の魔力を感じただと?

まさか、かつて閉ざされたはずのあちらの世界から、再びこちらの世界へと、力が流れ込んできているというのか?

​しかし、今の私だけではこれ以上深く探ることはできない。

​「もしかしたら俺たちの知らないところで、何かが動き出そうとしているのかもしれない。一応、カレンには注意するように言っておいてくれ」

​「……わかった。だが、お前も気をつけろ。さっきの男……ヨルンだったか? あの男は危険だ」

​「ヨルン? 何があったんだ」

​私の問いに、彼は険しい表情を浮かべた。

​「あの男は、私の魔力を無効化した。いや、違うか……無効化しただけではない。私の魔力を吸収したのかもしれない」

​私の言葉に、彼の瞳に驚愕の色が浮かんだ。

​私の力は、氷の女神と称されるほどだ。その強大な力を無効化する、あるいは吸収する力。

そんな存在は、一つしかいない。

私も彼もヨルンが一体何者なのかを、ある程度の予想は立てている。

もしかしたらこのラスールで、かつての絶望が再び繰り返されるかもしれないと思った。

​「警戒しろ、なんて言わなくても分かると思うが。あいつの目的が分からない以上、慎重に行動しろよ。せっかく見つけた魔人族の子の生き残りを、絶対に死なせるな」

​「……あぁ、それは十分理解しているさ。お前はこれからどうするんだ?」

​私の質問に、彼はフードを深く被り直すと、背後にある遺跡を見上げた。その瞳には、決意と使命感が満ちていた。

​「とりあえず、己の使命を全うするよ」

​彼がそう言ってマントを翻した瞬間、腰に下げられた二本の剣が、太陽の光を鈍く反射してきらめいた。

その剣は、かつて彼が、そして私が共に戦った日々を思い出させた。

​遺跡へと向かうその後ろ姿を見届けた私は、彼の言葉と警告を胸に刻み、目を閉じて静かにその場から姿を消した。