「しかしソフィアの魔人の力は、あまりにも強大すぎる。だから、私の力でしばらく眠ってもらう」
「な、眠ってもらうって……? ソフィアに何をしたんだ!?」
俺が思わず叫ぶと、青髪の女性は感情のない、透き通るような眼差しで俺を見つめた。
「ただ、一時的に力を封じただけだ。彼女の体は、まだ魔人の力に耐えられない」
「……っ」
青髪の女性はわずかに唇の端を上げた。
「暴走寸前だった魔人の力を鎮め、これ以上彼女が自らの力に蝕まれないようにしているんだ」
彼女の言葉に、俺は言葉を失った。
ソフィアの体は、先ほど氷剣に貫かれた場所から血が止まっている。それが彼女の処置だというのか。
「もし、彼女自身が本当に魔人の力を望んだ時、私の氷は自然と溶けるだろう」
「それは……どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。お前たちが守りきれなかった時、彼女がその力を必要とした時、私の氷は意味をなさない。彼女自身の意志だけが、氷を溶かす」
そう言い残すと、女性はカレンに一瞥をくれ、風に溶けるようにその場から姿を消した。
俺の頭の中は、彼女の最後の言葉で満たされた。
あの言葉に込められた真意は、一体何なのだろうか。
俺が守りきれなかった時、ソフィアは再びその忌まわしい力を求めることになる。
その恐怖が、俺の心臓を鷲掴みにした。
「……あの」
背後から、ザハラの震える声が聞こえた。
彼女はよろよろと立ち上がり、ひどく揺れる瞳で俺を見つめた。
「ソフィアの『雫が不安定』というのは、どういう意味ですか……」
ザハラの顔は、まるで罪を告白する前の罪人のようだった。
後悔しているのだろうか?
ソフィアを不安定な状態で戦わせてしまったことを。
だけどその問いに答える資格が、今の俺にあるだろうか。
俺自身が、ソフィアを守りきれなかったというのに。
「……話は後でいいだろ。とにかく、今はソフィアたちを運ぼう」
そう告げる声は、俺自身の感情から逃げるための言い訳だった。
この場で彼女に言葉をかけてやれるほど、俺の心は強くなかった。
ただ、ソフィアをこの場所から連れ去ることだけが、今できる唯一の行動だと思えた。
氷の上に倒れているソフィアの元へ駆け寄り、体にそっと触れる。
彼女の体を抱き起こした瞬間、俺の胸は痛みでいっぱいになった。
ソフィアの顔は、苦痛に歪んだままだった。
眉根は深く寄せられ、かすかに開いた唇からは、ひゅー、ひゅーと、か細い息が漏れる。
頬には血の筋がこびりつき、髪は汗と泥で肌に張り付いていた。
その閉ざされた瞼の下で、きっと彼女はまだ戦いの中にいるのだろうと、俺は胸を締め付けられた。
体はひどい有様だった。無数の切り傷が皮膚を深く裂き、そこかしこから血が滲んでいる。
服は原型を留めないほどに破け、露になった肌には、痛々しい打撲痕や擦り傷がびっしりと刻まれていた。
特に酷かったのは、脇腹を深く抉るような大きな傷跡。
そこだけは青髪の女性の氷によって凍りつき、血が止まっていたが、その冷たい塊が余計に、傷の深さを物語っているようだった。
まさか、あの女性は魔人ソフィアを封じ込めるためだけでなく、これ以上ソフィアの体が壊れるのを防ぐために、あえて氷で体を貫いたのだろうか?
その氷が俺たちを嘲笑うかのように、ソフィアの命を繋いでいる。
俺は気を失っているソフィアの頬にそっと手を当てる。
少し熱を持ったその感触が、彼女が生きているという現実を俺に突きつけてくれた。
きっと体の中で魔人の血が、必死に彼女を癒そうとしているのだろう。
まるで、俺の代わりに戦ってくれているかのように。
俺はソフィアを腕の中に抱き上げ、その柔らかな髪に顔を埋めた。
「ごめん……守れなくて」
喉の奥から絞り出したその声は、誰に届くわけでもなく、ただ虚しく宙に消えていった。
「な、眠ってもらうって……? ソフィアに何をしたんだ!?」
俺が思わず叫ぶと、青髪の女性は感情のない、透き通るような眼差しで俺を見つめた。
「ただ、一時的に力を封じただけだ。彼女の体は、まだ魔人の力に耐えられない」
「……っ」
青髪の女性はわずかに唇の端を上げた。
「暴走寸前だった魔人の力を鎮め、これ以上彼女が自らの力に蝕まれないようにしているんだ」
彼女の言葉に、俺は言葉を失った。
ソフィアの体は、先ほど氷剣に貫かれた場所から血が止まっている。それが彼女の処置だというのか。
「もし、彼女自身が本当に魔人の力を望んだ時、私の氷は自然と溶けるだろう」
「それは……どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。お前たちが守りきれなかった時、彼女がその力を必要とした時、私の氷は意味をなさない。彼女自身の意志だけが、氷を溶かす」
そう言い残すと、女性はカレンに一瞥をくれ、風に溶けるようにその場から姿を消した。
俺の頭の中は、彼女の最後の言葉で満たされた。
あの言葉に込められた真意は、一体何なのだろうか。
俺が守りきれなかった時、ソフィアは再びその忌まわしい力を求めることになる。
その恐怖が、俺の心臓を鷲掴みにした。
「……あの」
背後から、ザハラの震える声が聞こえた。
彼女はよろよろと立ち上がり、ひどく揺れる瞳で俺を見つめた。
「ソフィアの『雫が不安定』というのは、どういう意味ですか……」
ザハラの顔は、まるで罪を告白する前の罪人のようだった。
後悔しているのだろうか?
ソフィアを不安定な状態で戦わせてしまったことを。
だけどその問いに答える資格が、今の俺にあるだろうか。
俺自身が、ソフィアを守りきれなかったというのに。
「……話は後でいいだろ。とにかく、今はソフィアたちを運ぼう」
そう告げる声は、俺自身の感情から逃げるための言い訳だった。
この場で彼女に言葉をかけてやれるほど、俺の心は強くなかった。
ただ、ソフィアをこの場所から連れ去ることだけが、今できる唯一の行動だと思えた。
氷の上に倒れているソフィアの元へ駆け寄り、体にそっと触れる。
彼女の体を抱き起こした瞬間、俺の胸は痛みでいっぱいになった。
ソフィアの顔は、苦痛に歪んだままだった。
眉根は深く寄せられ、かすかに開いた唇からは、ひゅー、ひゅーと、か細い息が漏れる。
頬には血の筋がこびりつき、髪は汗と泥で肌に張り付いていた。
その閉ざされた瞼の下で、きっと彼女はまだ戦いの中にいるのだろうと、俺は胸を締め付けられた。
体はひどい有様だった。無数の切り傷が皮膚を深く裂き、そこかしこから血が滲んでいる。
服は原型を留めないほどに破け、露になった肌には、痛々しい打撲痕や擦り傷がびっしりと刻まれていた。
特に酷かったのは、脇腹を深く抉るような大きな傷跡。
そこだけは青髪の女性の氷によって凍りつき、血が止まっていたが、その冷たい塊が余計に、傷の深さを物語っているようだった。
まさか、あの女性は魔人ソフィアを封じ込めるためだけでなく、これ以上ソフィアの体が壊れるのを防ぐために、あえて氷で体を貫いたのだろうか?
その氷が俺たちを嘲笑うかのように、ソフィアの命を繋いでいる。
俺は気を失っているソフィアの頬にそっと手を当てる。
少し熱を持ったその感触が、彼女が生きているという現実を俺に突きつけてくれた。
きっと体の中で魔人の血が、必死に彼女を癒そうとしているのだろう。
まるで、俺の代わりに戦ってくれているかのように。
俺はソフィアを腕の中に抱き上げ、その柔らかな髪に顔を埋めた。
「ごめん……守れなくて」
喉の奥から絞り出したその声は、誰に届くわけでもなく、ただ虚しく宙に消えていった。


