「やめてくれ!」

闘技場全体に俺の声が響き渡った。

「これ以上、ソフィアを傷つけないでくれ!」

俺の言葉を聞いた青髪の女性は、ゆっくりこちらへと振り返った。

「……お前も見ていただろ? こいつは魔人の力を全然コントロール出来ていない。ましてや、力に呑み込まれている始末だ。もし次にこの力が表に出た時、こいつは今度こそ誰かを――」

「ソフィアは絶対にそんな事しない!」

「……」
 
​俺の叫びに、青髪の女性は青紫の瞳を細めた。

かざしていた左手をゆっくりと下ろすと、静かに俺に問いかける。

​「お前は魔人族がどういう者なのか知っているのか? 知らないから、そんな無責任なことが言えるんじゃないのか?」

​その質問に、俺は言葉を詰まらせた。

確かに彼女の言う通り、俺は魔人族について何も知らない。

魔人族とはどんな種族で、どうして人間族に滅ぼされたのか。

そしてなぜ、ソフィアだけが生き残ったのか。俺は彼女の過去を何も知らなかった。

​「……あなたの言う通り、俺は魔人族のこともソフィアのことも何も知らない。でも……」

​俺は右拳に力を込め、彼女の冷たい瞳を真っ直ぐ見つめた。

そんな俺の姿に、彼女は軽く目を見張る。

​「でも! 俺が今まで一緒に過ごしてきたソフィアのことは、誰よりも知っているんだ! あいつは努力家で、自分でやろうと決めたことを、最後まで諦めずにやり遂げる強さを持っている! 本当は泣き虫なのに、それを自分以外の人に知られたくなくて、壁を作って誰とも友達になろうとしなかった。でも、最近になって、ようやく友達ができたんだ!」

​そこで俺は、ミッシェルさんやカレンたちと笑い合っていた、ソフィアの楽しそうな笑顔を思い出した。

​「嘘が下手なのは相変わらずで、今は雫が不安定なのに自分の体を労らず、俺に隠れて勉強なんかしてる。でも、ソフィアがそうしようとするのは、強くなりたいからなんだ! もう二度と、大切な人を傷つけないために!」

​俺の言葉を、青髪の女性は何も言わずに聞いていた。

そんな彼女の無言に、俺は少し怯みながらも言葉を続けた。

​「だから俺は……ソフィアが人を殺すなんてことは、絶対にないと信じている!」

​そう、俺は信じているんだ。

ソフィアは絶対に誰も殺さない。

いや、殺させたりなんかしない!

​「……まったく。どうしてこう、何も知らないくせに、本気で信じて疑わない男ばかりなんだろうな」

​「えっ……?」

​青髪の女性は小さく呟くと、その場から軽やかにジャンプし、半壊した客席の上に降り立った。

そして俺を見下ろし、小さく微笑む。

​「本気でそう信じているなら、まずは知ることから始めろ。お前のその信念は、ソフィアの過去を知った時に本物になる」

​「……ソフィアの過去?」

​彼女の言葉に、俺の胸はざわめいた。

それっていったい?