​青髪の女性は再び無造作に右手を動かすと、今度はソフィアの背後へと無数の氷刃の矢が音もなく出現した。

その数、数十、いや百を超えるだろうか。

その矢はただの氷ではなく、凍てついた魔力を凝縮した結晶体のように、冷たい光を放っていた。

​「なっ!」

​ソフィアが驚愕に声を上げる中、女性の唇が静かに、冷酷な響きを帯びて動き出す。

​「──響け、凍てつく魂の嘆き。降り注げ、終焉の矢」

​その言葉と同時に、彼女の周りの空気が一瞬にして凍りつき、白い息が視界を覆う。

​「終焉の氷刃(アポカリプス・ブレード)

​女性は右拳を握り締め、その合図とともに、全ての氷の矢が雨のようにソフィアへと降り注ぐ。

それはただの矢ではなく、鋭利な刃を持つ氷の嵐だった。

魔人化によって強化されたはずのソフィアの体が、まるで紙切れのように次々と貫かれていく。

​「きゃあああ!」

​ソフィアは悲鳴を上げ、その身は矢の嵐に晒された。

女性は決して、ソフィアに反撃の隙を与えることはない。立て続けに放たれる魔法に、俺はただ呆然と立ち尽くした。

あの魔人化したソフィアを、一方的にねじ伏せる戦い方。

そして……何て途方もない魔力なんだ。

こんな魔力、今まで感じたことがない。

いったい、あの人は……。

​氷刃の矢が止むと、ソフィアの体はボロボロになり、満身創痍の状態だった。

今の彼女はもう立っているのがやっとに見えた。

青髪の女性は、氷剣の切っ先をソフィアへと向ける。

その光景に、俺は思わず息をのんだ。

​「本当にお前は、魔人族なのか?」

​その言葉に、ソフィアは怒りで全身を震わせた。

紅い瞳を細め、燃えるような憎悪の視線を女性に突き刺す。

​「私が知っているあいつは、お前とは違っていた。自分の守るべき者の為に力を振るい、決して人を傷つけるような戦いはしなかったぞ」

「……いったい、誰のことを言っているのか知らないけど! 何も知らないお前が、私の何が分かるって言うのよ!」

「……ああ、何も知らないな」

​その言葉を最後に、彼女は一気に間合いを詰め、迷いなく氷剣をソフィアの胸へと突き立てた。

​「なっ!」

​その容赦のない行動に、俺の心臓が大きく跳ね上がった。

​「……今のあんたじゃ、知ろうとは思えないな」

​ソフィアは一瞬遅れて、自分の体が氷剣に貫かれていると知覚した。

すると、張っていた気が途切れたかのように、彼女の意識は深い眠りへと落ちていき、ぐったりと項垂れた。

その拍子に、彼女の髪が元の翡翠色に戻ったのを確認すると、女性はソフィアの体から氷剣を抜き、今度はそっと左手をかざした。