​「最悪だわ。あなたに二度も止められるなんて、想像すらしていなかったし」

​「そりゃ残念だったな。いくら(オレ)でも、今回ばかりは見逃すわけにはいかない」

​「なに? あの時は姿を現さなかったくせに、こういう時にだけ出てくるっていうの?」

​「頼まれたからな。それにあんたも安心しただろ? 私が来ていなかったら、あんたは自分のその手で、大事な人を殺すところだったんだ」

​彼女の言葉に魔人ソフィアは言い返すことができず、悔しさに顔を歪めてそっぽを向いた。

その隙に俺はザハラの側へと寄り、彼女に治癒魔法をかけ始める。

​「あ……あの人は?」

​「……分からない。俺も見たことがない人だ」

​しかし魔人ソフィアは、その女性のことを知っているようだった。

まるで以前に戦ったことがあるかのような口ぶりだったからだ。

​「でも……本当に今回はやりすぎだ」

​青髪の女性が静かにそう告げると、その瞳は鋭く研ぎ澄まされ、魔人ソフィアを射抜くような視線を放った。

左手には、周囲の冷気を凝縮させた氷剣が形成されていく。

​「……なに?」

​「いや、昔に教わったんだ。魔人化した奴の力を押し込めるには、荒療治が一番……良いってな!」

​次の瞬間、女性は氷剣を振り上げ、魔人ソフィアの半身を閉じ込めていた氷を一閃のもとに粉砕した。

ソフィアが自由になったと認識する間もなく、女性は肉眼では追えないほどの速度で距離を詰め、その細身からは想像もつかないほどの力で、魔人ソフィアの腹部を思い切り蹴り飛ばした。

​「ソフィア!」

​壁に叩きつけられる直前、ソフィアはかろうじて体勢を立て直すと、後ろの壁を足場にして地面を蹴り、反撃に出るべく女性に向かって飛翔した。

​「……はあ」

​女性はつまらなそうに息を吐くと、まるで羽虫を払うかのように無造作に右手を動かす。

その動作と同時に、彼女の周囲に透き通った氷の薔薇がいくつも出現し、その花弁から鋭い氷のツルが伸びた。

それはまるで無数の蛇のようにソフィアの体に絡みつき、容赦なく体を貫いていく。

​「ぐっ!」

​激痛に耐えかね、ソフィアは女性に近づくことができない。

彼女は左手を構えて黒い玉を作り出し、氷の薔薇を破壊しようと力を込める。

しかし、青髪の女性はそれを許さなかった。

「逃げられると思うな」

彼女の目が冷ややかに細められると、氷のツルがさらに数を増し、ソフィアの四肢を完璧に封じ込めた。

氷のツルはみるみるうちにその太さを増し、ソフィアの体ごと巨大な氷の檻を形成していく。

それは、ただの氷ではない。

その内部に閉じ込められたソフィアの魔力が、見る見るうちに弱まっていくのが感じられた。